福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)599号 判決 1966年4月13日
控訴人・原告 池田宝蔵
訴訟代理人 中村達
被控訴人・被告 草野晧子 外一名
訴訟代理人 岩本健一郎
主文
原判決を取消す。
被控訴人らは各自控訴人に対し金二三万七、二二〇円およびこれに対する昭和三六年九月二五日から完済に至るまで、年五分の割合いによる金員を支払え。
控訴人その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らは各自控訴人に対し金二三万七、五五八円およびこれに対する昭和三六年九月二五日以降完済に至るまで、年五分の割合いによる金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上・法律上の主張および証拠関係は、証拠として、控訴代理人において、甲第九号証を提出し、当審における証人林田竹司、同林田亘恭の各証言、同控訴人本人尋問の結果を援用し、被控訴人ら代理人において、当審における証人藤本幸子同諸富キクの各証言、同被控訴人草野晧子、同被控訴人草野国弘各本人尋問の結果を援用し、甲第九号証の成立を認めたほかは、原判決の当該摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
被控訴人草野晧子が、昭和三五年七月二三日控訴人に対し、原判決添付別紙目録記載の宅地建物を代金一四五万円で売渡し、同年八月三日その旨所有権移転登記手続をなしたことは当事者間に争いがなく、控訴人が右代金を支払つたことは、被控訴人らにおいて明らかに争つていないので、これを自白したものと認むべきである。
しかして、原審証人椎山俊美の証言によつて成立を証めうる甲第五号証、成立に争いのない甲第六号証、同第七号証ならびに右椎山証人の証言および控訴人本人尋問の結果(原審ならびに当審)を綜合すれば、控訴人が買受けた宅地中、長崎市中新町四三番地の一宅地八六坪五合(当時の登記簿上の表示)は、実測の結果六八坪六合八勺しかなく、差引き一七坪八合二勺が不足することが認められ(控訴人は、このことを昭和三五年九月二五日知つた。他に右認定を左右するに足る確証はない。
そこで、本件売買が「数量を指示した」売買に当るか否かの争点について按ずるに、前顕甲第六号証、控訴人本人尋問の結果(原審ならびに当審)、被控訴人草野国弘本人尋問の結果(当審)の一部に弁論の全趣旨を綜合すれば、本件売買は、原判決添付別紙目録記載の宅地建物を一括して締結されたものであるが、しかし長崎市中新町西三番の一宅地八六坪五合、同番地の二宅地七坪四合というのは、単に宅地を特定し、その同一性を示すために、登記簿上の地番、坪数をそのまま挙げたというにとどまらず、買主たる控訴人においては、もちろん、そのとおりの実測面積があるものと信じ、また、売主たる被控訴人ら側においても、売買の目的物たる本件宅地の実測面積は、登記簿表示の坪数より少なくないことを認め、当事者双方ともこれを基礎として代金額を定めたものであることを認めることができるのである。しかして、宅地の売買代金が、坪当りの単価を明示し、これに坪数を乗じて算出する方法によつて決定されたものではなかつたとしても、買主が一定の数量があるものと信じたにとどまらず、売主も、また、一定の数量あることを認め、当事者双方がこれを前提とし、その基礎の上に立つて代金額を定めたような場合には、「数量を指示した」売買に当るものと解するを相当とすべく、したがつて、実面積が協定面積に不足するときは、代金額は実面積に基づいて減額せらるべきことは当然であり、本件売買代金が地上建物と一括して協定せられたということは、必ずしも右認定の妨げとはならないものというべきである。この点について被控訴人らは本件売買は、当事者が実地そのものに着目し、坪数の如何にかかわらず宅地建物を一括して代金一四五万円と定めてなしたものであり「数量を指示した」売買ではない旨抗争するけれども、これに添う被控訴人草野国弘(原審ならびに当審)および被控訴人草野晧子(当審)各本人尋問の結果は、いずれも前顕各証拠と対比してにわかに措信しがたく、原審における検証の結果によるも前記認定を動かすに足りず、他にこれを左右すべき確証はない。
よつて、減額せらるべき代金額について按ずるに、控訴人本人尋問の結果(原審ならびに当審)によれば、本件売買代金は、本件建物が金二〇万円、本件宅地が金一二五万円の割合いであつたことが認められるから、その額は、坪当りの単価金一万三、三一二円(円未満四捨五入)に不足坪数一七・八二を乗じた金二三万七、二二〇円(円未満四捨五入)と認めるのが相当である。
しかして、本件売買に当り被控訴人草野国弘が売主たる被控訴人草野皓子の買主たる控訴人に対する債務につき保証をしたことは、弁論の全趣旨に徴してこれを認めうるので、結局、被控訴人らは各自控訴人に対し前記二三万七、二二〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和三六年九月二五日より支払いずみに至るまで、年五分の割合による民事損害金の各支払い義務を免れないというべきである。
しかるときは、本訴請求は以上認定の限度においては理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべきところ、右と趣旨を異にし控訴人の請求全部を棄却した原判決は失当であるからこれを取消し、本訴請求を右認定の限度においてこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西信三 裁判官 入江啓七郎 裁判官 小川宜夫)